costume (ラバヒルです)
 


まだ高校生という年頃で、
なのに実家から独立した一人暮らしをしている蛭魔の住まいは、
泥門の駅の裏手、旧家の多い閑静な辺りにある、
外観はさほど凝ってもない、至って平凡な作りのマンションだけれど。
よく見ると1つの階層が随分と高さを取っているのに気がつく。
1つの階に2つずつしか入居スペースを仕切らないところから察しても、
広々としたフロアを組み合わせた、外国仕様の住居であるらしく。
エントランスロックのシステムも本格的で、
セクレタリィカウンターにいる管理人さんとは別に、
専門の警備担当が常駐しているところも、
普通一般の人々が寝起きするだけの場所にしてはかなり厳重な。
だのにだからこそ、そういう点を喧伝
(アピール)してはない
“特別”の傾向を備えた住居であり。
まだ学生という分際でありながら、
そんなとんでもないマンションじゃあないと、
いろいろと不都合がある身だということか。

 “本人の肩書のせいだけじゃあ なくなりつつあるみたいだけどもね。”

外国での大きなプロジェクトにもひょいと参入しているような、
とある巨大商社をほんの二代ほどで今の規模にしたという起業家の末子。
なので、それまでは権勢をふるってた顔触れが、
真っ当な競争で負けた末、取って代わられた腹いせに、
この成金がと…遠く離れた故郷に残っている末っ子へまで
思わぬ魔手を伸ばして来ることが稀にあり。
モラルや何やの基準が大きに異なる物騒な輩から、
思い出したように不意な奇襲を受けるのへの警戒から、
こういう住まいを選んだ彼だった……のには違いなかろうが。

 【 おう、来たか。あがれ。】

エントランスのも、住居のも、ご本人から直々に合鍵を渡された身。
それでもという礼儀でチャイムを鳴らせば、
こっちの名乗りの途中にかぶさって、何ともあっけらかんとした声が返って来。
手短な指示だけ出すと、素っ気なくもガチャリとインタフォンが切れた。
合理主義者で実用優先の人。
でもね、今のはそういうんじゃなくて、
気を張る必要がない相手だからと、
気を抜きまくった対応をしたまでのこと。そして、

 “……よかったぁ。”

怒るどころか、こっそりとその胸中で安堵の吐息をついた桜庭だったのは、
至急来いとのメールをもらい、しかも携帯がつながらなかった愛しの君に、
一体何があったんだろかと、ここに着くまでずっと不安でいたからで。
どんなに信用してたって、どんなに頼もしい人かを知っていたって、
こういう時にはそんなの別だ。
それでなくとも半月ほど、
お互いの都合が合わなくて逢えなかった二人でもあって、
こっちはテレビへの露出もあるし、
事務所のブログには今日の収録予定なんてスケジュールも載ってる身だけれど、
向こうは一応、普通の私人なんだもの、不公平ったらない。

 「…ヨウイチ?」

最上階の一方のドア、手づから鍵を開け、
どこの個人医院ですかというような、洒落た玄関ポーチへと踏み込めば、

 「こっちだ、こっちっ。」

奥まった辺りからの声がした。
お出迎えがないのはさすがに寂しいかなと、
頼もしい肩、ちょっぴりふしゅんと萎えさせたアイドルさんだったが。
そこはこちらも慣れたもの。
ラックの一番上、いつも使っている濃青のスリッパを取り出すと、
お邪魔しま〜すと 奥向きへまで上がっていったところが、

 「…っ☆」

薄型液晶の大画面テレビとソファーセット以外、
日頃は何もなさすぎるほど がらんとしていたリビングが、
雑多なもろもろに埋まりかけていて…びっくり。

「…何なの、これ。」

妙な言い方になるが、蛭魔はあまり物持ちじゃあない。
何でもかんでもひょいっと取り出す万能の人だってことで有名だけれど、
それはそもそも、
その場その場で都合をつけられる鋭い機転や、
若しくは広い人脈やがあっての実現されていることだからして。
物騒な銃器や通信系統の先進の機器以外の物品は、
用が済んだら使い捨てが基本であるらしく。
よって、携帯電話やモバイル関係、銃器に武器にといった、
当人の趣味の延長線上にあるもの以外を、
このフラットで見た覚えは あんまりない桜庭だったのだけれども。

「服がいっぱいに、こっちは応援グッズの試作品? 着ぐるみまである。」

手近なところからを拾い上げたり掻き分けたりしつつ、
足場さえ見えない危なっかしい空間を進軍すれば、

「おうよ。
 部室に置いとくには限度があるんで引き取ってたら、
 収蔵庫が満杯になっててな。」

本宅から時折 整頓と補充においでの方々がいるそうなので、
掃除や買い物で煩わされることはないそうではあるけれど。
「やっぱ、勝手に処分は出来ないからって、
 あちこちの収蔵庫に仕舞っててくれてたらしくてな。」
それが銃器の類ならば、坊ちゃんの大事なコレクションだと断定出来るが、
それ以外はどうにも判断がつけにくく、
いきなりお要りようになるかも知れないと思うと、
携帯につけるストラップのようなちょっとした雑貨でも、
なかなか手はかけられないのだとか。
で、とうとうその収納にも限度が来たので、
大まかでいいから不要物はまとめておいてほしいとの連絡があったらしく。
しょうがないかと今朝からのずっと、
広げては要る要らないとコツコツ仕分けをしていたものの、

 「……さては、飽きたな?」
 「あったりーっ♪」

YA――― HA――−との高笑いも大威張りの“俺様”様としては、
こんなちまちました作業は性に合わないと気がついたものの、

 「うっちゃらかして出掛けようにも身動き取れねぇんでやんの。」

それでと、救援隊として桜庭を呼んだ彼であったらしく。
もしかして段取りのミスだろに、笑って済ませようとするのが、
このお人に限っては むしろかあいらしいお茶目であり、

 「まあ、一気に焼き払うとかしなかったところはとりあえず偉い。」

既にどの箱もぎゅうぎゅうになっている段ボール箱を見回しながら、
この気の短い悪魔様にしては悠長なことをしていたこと、
これでも驚いてますと表明した桜庭へ、

 「それやったら、俺 今夜どこで寝るんだよ。」
 「それこそボクんチに来ればいいじゃないvv」

両手をわざわざ広げて見せての、
にっこり微笑ったお顔は、相変わらず清々しいほど端正だったし。
恐らくはきっと、
100% 本心からの歓迎を込めて言っている彼なのだろうけれど。

 「………馬〜鹿。」

桜庭へは“ファッキン”よりも多い、この“馬鹿”が出るときは、

 “あららvv もしかして照れてる?”

ふいっとそっぽを向いた悪魔様。
黒っぽいカットソーにスリムなチノパンという、
相変わらずにシンプルないで立ちをしておいでだが、
だったら、金色の髪の合間から覗く お耳の先が赤いのは、
着ているものの色が映ってのそれじゃあないってことだよね?

 “そういや、ウチに来たことはあっても泊まったことはなかったか。”

実家のほうへも数えるほどだし、
事務所から借りているマンションのほうに至っては、
妙なスクープにでもされたらコトだろなんて言っちゃあ、
なかなか足を運んでくれない。
面倒ごとに関わるのがヤだと言いながら、
その実、桜庭の周辺へ要らぬ雑音を立てたくはないからなのが見え見えで。

 “もうもう、可愛いんだったらvv”

口に出して言ったらば、間違いなく蜂の巣にされそうだから、
そんな迂闊なことは致しませんが、
それでも…可愛い人だよなぁなんて。
この悪魔様を捕まえて、
そんな豪気な感慨に胸の裡
(うち)をほこほこと暖めていた王子様が、

 「………で、これは?」

一体どんな企みに使ったんだかという、
コンビニやらファストフードやらテーマパークやらの、
特長ある制服のあれこれが散乱する中。
よいせよいせと、何とか踏み越えて来たった愛しい痩躯を、
こちらからも手を延べて誘導し。
きっと…桜庭への緊急出動のメールを打ってから、
ついうっかりと ぽいっと放ってしまったらしい日頃使いの携帯を、
戸口近くのソファーの上から拾いあげた悪魔さんへと訊いたのが、

 「……ん?」

壁に作り付けの収納庫、
そこの扉の上辺へとハンガーを引っかけて吊るされていた、
そちらも立派な制服が1着。
濃紺のゆったりしたフレアスカートのシンプルなワンピースに、
フリルつきの真っ白なエプロンドレスが対になってる、
どっから見ても“メイド服”だが、

 「ヨウイチんトコの実家で皆さんがお召しのは、こういうのじゃなかったし。」
 「……よく覚えてやがんのな。」

こんなもん、どこのも同じと思っていたが、
微妙に違ったんでウチで使う訳にもいかねぇしと、
それで処遇に困って突っ込んであった……と、
そっちの方の説明しかしない誰かさんだってことは、

 「……ヨウイチが着たんだね、これ。」
 「お前だって着たじゃんか。」

  しかもミニの本格的萌えタイプ。
  だあ、そっちは罰ゲームだったんでしょうがっ。////////

話を逸らすなと、声を高めて、

 「だからっ。僕のメイド姿は見たくせに、」
 「言っとくけど今更着ねぇぞ。」
 「どっかの誰かは見たんでしょ?」
 「ったりめぇだ。それを誤魔化すための変装をしたから着たんだろが。」
 「だったらそんなの不公平じゃないかっ!」

  アメリカ戦控えてっときの潜入でだな、
  あんな奴らには見せといて、僕にはダメっておかしいじゃんかっ。
  お前そういうのが好みだなんて一度も
  そういうのがじゃなくて、ヨウイチのするカッコだからだろっ



面倒ごとから ばっくれようと思って呼んだ救援だったのに、
とんだ薮蛇してしまったらしく。

 さて、ここで問題です。

  「着ねぇっつってんだろがっ。//////////」
  「じゃあさじゃあさ、もーりんさんが帰ってから。ね?」
  「〜〜〜〜〜じゃあ、とっとと帰れ。////////」

   あ、ずるい。
(笑)





  〜どさくさ・どっとはらい〜  08.11.23.


  *どのくらいぶりだか、
   夢の“進セナ”モードになっている本誌になっとるその上、
   先週は誰か様がとんでもない萌え姿を披露なさったりもしたそうで。
   ……ウチがラバヒルサイトでもあることを覚えてて下さった方、
   どうも待たせ致しました。
   つか、実物見てないのでこれで正確か怪しいもんなんですけれど。
(う〜ん)
   ラバくんのメイドといい、進さんの北斗神拳といい、
   同人誌顔負けなネタを原作で描かれちゃうとはねぇ。
(苦笑)


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